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横浜ちょっと昔のちょっといい話

ニューグランドは横浜のホテルのルーツ?

1999年3月27日

 さて、皆さんは横浜のホテルと言ったら、どこを思い浮かべるでしょうか?昨年横浜駅前にできたベイシェラトンホテルですか?「ザヨコ」の通称で人気の「ザ・ホテルヨコハマ」? みなとみらいには、帆のイメージのインターコンチネンタルホテルや、ランドマークタワーのロイヤルパークホテルニッコーもありますね。でも、何といっても歴史という点からは、山下公園前のホテル・ニューグランドの右にでるものはないでしょう。今回はこのホテル・ニューグランドのお話です。

 ニューグランドというくらいですから、グランドホテルというのがあったのかな、と思っている人も多いでしょうが、そのとおりです。グランドホテルは明治6年(1873年)海岸通20番に開業しました。今の「人形の家」のあたりです。明治22年には隣接する土地に新館を増築、日本でも有数の外国人ホテルになりました。この他にもこの時代には海岸通にオリエンタル・ホテルやクラブ・ホテルなど、いくつかのホテルがあり、外国からの貿易商が多く利用していました。ちなみに、日本最初のホテルについても諸説がありますが、1860年に開業した「横浜ホテル」が最初という説もあります。

 大正12年の関東大震災で海岸通は壊滅的な被害を受けました。グランドホテルも倒壊しました。横浜市はすぐに復興計画を立てはじめましたが、その中に、「ホテル建設費」というのが入っていました。何故、市がホテルを作る必要があったのでしょうか。それは、当時の輸出産業の生糸に関係しています。それまで、生糸は横浜港から独占的に輸出されていました。震災の数年前から、神戸で生糸市場の開設運動が起こり、震災で壊滅的な打撃を受けた横浜港に代わり、神戸港でも生糸の輸出ができるようになりました。実際に、神戸港の生糸やその他の貿易量が増えたのに対して、横浜港のはなかなか震災前の水準に戻りません。横浜から商社や外国人が、神戸や東京に引越して行くのを見て、至急、近代的なホテルを建設して、再び横浜に貿易業者を誘致しようと、当時の市長や議会は考えたのです。

 一方、横浜の財界人が中心になり、新しいホテルの運営の人選をすすめました。ホテルの名称も一般公募し、「ホテル・ニューグランド」が一等当選になりました。しかし当選者の記録もなく、応募の中にこの名称があったかは定かではありません。このようにして、ホテル・ニューグランドは大正15年12月1日に開業しました。つまりグランドホテルの生まれ変わりと言っても、名前だけが引き継がれたということです。

 このホテルはマッカーサーが泊まったことでも知られています。マッカーサーがマニラから厚木基地に降りた日、そのまま車でニューグランドに移動しました。程なく昼食の時間になりましたが、ホテルと言えども、食糧が豊富にあるわけではなく、用意したメニューは「冷凍のスケソーダラ、サバ、酢をかけたキュウリ」でした。(冷凍クジラのステーキ風という説もある)マッカーサーは一口だけで食べるのを止めてしまいました。それを知ったニューグランドの野村会長は日本の食糧難をマッカーサーに直訴したという話もあります。

 マッカーサーはこのホテルに3日泊まったあと、宿舎を根岸の山の上にある元スタンダード石油の支社長、C・マイヤーズ邸を使ったということになっています。12日間の横浜滞在の後、東京の第一生命ビルがGHQの本部になりましたが、そのビルとニューグランドを設計したのは、どちらも同じ人、渡部仁です。ニューグランドは開業当時からその新鮮なデザインが話題になりました。外観はそれほど奇抜ではありませんが、入口を入るといきなり大きな階段があり、2階にロビーがあります。そこでは、人の往来と切り離された落ちついた空間があり、港を一望出来ます。また、随所に東洋的なデザインを取り入れた内装も評判でした。

 ホテルには著名人も多く宿泊しました。接収時代に戦前の記録が破棄されてしまったので、公式な記録ではないのですが、チャップリン、ベーブ・ルースも泊まったそうです。宿泊するだけでなく、ホテルはしばしば仕事場にもなります。ニューグランドで有名なのは作家の大佛次郎で、10年ほど、鎌倉の自宅からニューグランドに通っていたそうです。仕事に疲れると、ホテルの一階のバー「シーガーディアン」でくつろいでいたそうです。このバーから日本をイメージしたオリジナルカクテル「バンブー」が生まれています。

 実は私はニューグランドに泊まったことはないのです。横浜に住んでいると、横浜のホテルに泊まる機会ってほとんどありませんね。何せ、すぐに家に帰れますから。でも、10年ほど前に会食をしたことが有ります。非常に丁寧な応対で気持ちよいひとときを過ごせたのを憶えています。

参考文献:白土秀次「ホテル・ニューグランド50年史」ホテル・ニューグランド
       藤森照信「建築探偵の冒険 東京篇」ちくま文庫
       「よこはまもののはじめ考」横浜開港資料館2003年8月7日

アルバム

ホテルニューグランド正面 風格のあるエントランス。1階より2階のロビーの方が大きいのが分かります。
(2003年5月1日撮影)
建物の角のエンブレム 建物の角にあるエンブレムには、開業した"AD1927"の文字があります。右上に見えるのが新館です。
(2003年5月1日撮影)
上記エンブレムの近影です。
(2004年3月27日撮影)

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(c) 2003 Masanori Kono